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東京高等裁判所 昭和45年(行ケ)44号 判決

事実及び理由

一  前掲請求の原因のうち、原告主張の実用新案につき、その登録出願から手続補正及びその却下決定を経て、審決の成立、その謄本の送達にいたる特許庁における手続の経緯、考案の登録請求の範囲、手続補正却下決定及び審決の各理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、右審決の取消事由の存否について審究する。

第一引用例に、周囲が絶縁層で被覆された帯状導体の所要数を、その各側面が相接するように並べて、複数の導体を一体的に構成し、その側面をその辺よりも大きな辺をもつ溝形金属体で挾んだ絶縁母線についての記載があり、補正にかかる本願考案がその構成において、(A)各々その周囲が別個の絶縁層で被覆された帯状導体の所要数をその各側面が相接するように並べること、(B)二つの溝形金属体の間をボルトで連結して右帯状導体を締め付けたことの二点において第一引用例のものと相違することは当事者間に争いがない。

しかし、まず、(A)の構成についてみると、成立に争いのない甲第三号証の一(第一引用例)によれば、第一引用例の絶縁母線において、前記のように複数の帯状導体がその各側面を相接するように並べられ、一体的に構成されているのは、エポキシにより接着されているものであることが認められ、この事実からすれば、第一引用例のものにおいて、複数の帯状導体は、それぞれ個別にエポキシなる絶縁層で被覆されたうえ、密接して配置されているものとみることができるとともに、本願出願当時、絶縁母線の導電部材として各々その周囲を個別に絶縁された所要数の帯状導体を用いることが第二、第三引用例に記載されているように、周知技術であつたことは当事者間に争いがないから、補正にかかる本願考案の(A)の構成は、以上の技術に基き極めて容易に想到しうるところであるということができる。原告は、(A)の構成は、個別絶縁導体の所要数を、帯状導体の放熱効果、絶縁材料の絶縁特性等にかかわりなく、必要的に密接配置することを意味し、この場合、通電時に生じる八〇度を越すジユール熱に耐えないブチルゴム、ビニール等によつて被覆絶縁された帯状導体をもあえて密接配置するものであつて、第一引用例の絶縁母線のように、絶縁導体を密接配置し、この場合、通電時に生じるジユール熱に十分耐えうるエポキシを絶縁材料に用いるものとは技術思想を異にし、第一引用例のものに基いて容易になしうるものとはいえない旨を主張し、補正にかかる本願考案が絶縁材料として八〇度を越す熱には耐えないブチルゴム、ビニールをも使用すること、第一引用例のものにおいて絶縁材料として用いられるエポキシが一三〇度程度の熱にも耐えることは、被告の認めて争わないところであるが、補正にかかる本願考案は、さきに確定した登録請求の範囲の記載から明らかなように、絶縁材料として何ら限定がないから、エポキシをも許容するものと認むべきであり、エポキシを被覆絶縁に用いれば、(A)の構成において、第一引用例のものと、さして異なるところがない以上、特にジユール熱に耐えない絶縁材料により被覆した帯状導体の密接配置をも意図しているからとて、第一引用例のものに比して格別の考案を要するものということはできないのである。

次に、(B)の構成についてみると、補正にかかる本願考案において、二つの溝形金属体がボルトで連結され、その間にある所要数の絶縁された帯状導体を密接して挾んで締め付けられることは、さきに確定したところであり、いずれも成立に争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案公報)及び第四号証(手続補正書)によれば、このようにボルトを使用する構成は帯状導体に発生したジユール熱を溝形金属体に伝えて放熱するという効果をもたらすものであることが認められ、これに対し、第一引用例の絶縁母線においては、さきに認定したように、帯状導体がエポキシにより一体化されているところ、前出甲第三号証の一によれば、二つの溝形金属体もまた、右のように一体化された帯状導体とエポキシにより接着していることが認められるとともに、エポキシが接着力強く、短絡強度を有し、また、ブチルゴム、ビニール等と同程度の伝熱性を有することは当事者間に争いがないから、エポキシは二つの溝形金属体の間に絶縁された帯状導体を密接して移動することのないよう挾持し、同時に帯状導体に発生するジユール熱を溝形金属体に伝え放熱するのを容易にするという効果をもたらすものであることが認められる。これにつき、被告は、第一引用例のものにおいて、溝形金属体は帯状導体とエポキシにより接着しているものではなく、上、下の保持板に螺子止めされることにより、帯状導体を挾持するものである旨を主張し、二つの溝形金属体がその間に帯状導体を挾みつつ、上、下の保持板に螺子止めされていることは原告の認めるところであるが、前出甲第三号証の一によれば、第一引用例のものにおいて、二つの溝形金属体を上、下の保持板に螺子止めにする構成は、溝形金属体がエポキシにより帯状導体と接着されている場合においても、絶縁母線全体の機械的強度を高めるためには、なおかつ必要がないといえないことが明らかであるから、右構成から直ちに、溝形金属体と帯状導体とがエポキシにより接着されているとした前記認定を覆えして、被告の右主張を認むべき限りではない。そして、第二、第三引用例に、ボルトによつて、外箱又は締付金具が連結されている構造が記載されていることは当事者間に争いがなく、また、一般に、ボルトが二つの物を連結し、その間の物を締め付けて挾持する手段として本願出願当時周知であつたことは原告の自陳するところであり、以上の事実を勘案すれば、補正にかかる本願考案の(B)の構成のように、第一引用例の溝形金属体と帯状導体とを接着しているエポキシの代わりに、二つの溝形金属体をボルトで連結し、その間に介在する帯状導体を締め付けて挾持させ、これにより、帯状導体を移動させず、かつジユール熱の放熱を容易にすることは、極めて容易に想到しうるところであるというべきである。

最後に、補正にかかる本願考案の(A)、(B)の構成により、原告主張の前掲(1)ないし(4)その他の効果があることは被告の認めて争わないところであるが、すでに説示したとおり、(A)の構成は各引用例以上の考案力を要しないものであるから、右(1)、(2)の効果は、第二、第三引用例の周知技術を用いたことによる当然の効果にすぎないことが明らかであり、また、第一引用例のものにおいても、二つの溝形金属体の間に絶縁された帯状導体が密接して移動することのないよう挾持するとともに、帯状導体に発生するジユール熱が溝形金属体によく伝えられて放熱されることは前認定のとおりであるから、導体の許容電流を増大させうることは明らかであり、また、エポキシが短絡電流による導体相互間の離隔作用をする電磁力に対抗する作用を営むことは原告の自認するところであるから、本願考案のその他の効果はいずれも補正にかかる本願考案に特有の顕著なものということはできない。

そうだとすれば、本願考案は、手続補正にかかる構成をもつてしても、実用新案法第三条第二項の規定により登録することができないものであるから、右手続補正の却下決定は正当であり、本件審決のこの点に関する判断に誤りはない。

三  よつて、本件審決に判断の誤りによる違法があるとして、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却する。

〔編註〕本件における補正却下決定の理由は左のとおりである。

所要数の帯状導体を並べてその周囲を絶縁物で被覆した導電部材の両側面を、その辺よりも大きな辺をもつ溝形板体二つで密接して挾み、その二つの溝形板体を上下の板材で固定して右導電部材を締め付けた絶縁母線の構造は、エレクトリカル・コンストラクシヨン・アンド・メインテナンス一九六二年五月号(以下、「第一引用例」という。)に記載されているところ、一般に絶縁母線において導電部材の外周に設けられる溝形板体を金属で構成することは、当業者がごく普通に行うことであるから、右引用例には溝形板体が金属よりなるものである旨の明示はないが、補正にかかる登録請求の範囲に記載された事項により構成される本願考案のように、第一引用例に記載された絶縁母線において、その溝形板体を金属よりなるものとし、その導電部材について、単に各々その周囲が別個の絶縁層で被覆された帯状導体の所要数を、その各側面が相接するように並べたものとし、その溝形板体の間を単にボルトで連結して帯状導体を締め付けた構造とする程度のことは、当業者が容易に推考しうることである。そして、第一引用例の刊行物は、本願考案の出願前に頒布されたものと認められるから、右補正にかかる本願考案は、その出願時において実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないものであつた。したがつて、本願考案の右のような補正は、同法第一三条が準用する特許法第六四条第二項によつて準用される同法第一二六条第三項に違反するものであるから、実用新案法第一三条が準用する特許法第五四条第一項により、これを却下すべきものである。

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